昨年1.3点差で落ちた受験生の令和元年予備試験再現答案

平成最後の予備試験論文試験で後1.3点差で落ちました。忘れないうちに令和元年の予備試験論文再現答案を記録します。

令和元年予備試験論文問題再現答案ー刑法ー

第1 甲の罪責について

1 Aに対して、本件土地を売った行為について

⑴まず、甲はⅤから本件土地に抵当権を設定する代理権を付与されているにすぎず、「自己の占有」(刑法252条1項)とはいえないため、横領罪(252条)ないし業務上横領罪(253条)は成立しない。

⑵次に、「背任罪」(253条)の成否を検討する。

ア 甲はⅤから本件土地に抵当権を設定するよう依頼されており、「他人のためにその事務を処理する者」にあたる。

イ また、甲は自己の借金を返済するためにかかる行為をなしており、「自己若しくは第三者の利益を図」る目的を有している。

ウ そして、Ⅴの依頼に反して、Aに対して、本件土地を売ることは、「その任務に背く行為」にあたる。

エ もっとも、本件土地の売買契約は、他人物売買であり、表見代理に関する規定の適用はないため、Aは本件土地の所有権を失っておらず、「財産上の損害」は生じていない。

オ 以上より、背任未遂罪(247条、250条)が成立する。

2 本件土地の売買契約において、「Ⅴ代理人甲」と署名した売買契約書を交付した行為について、私文書偽造罪(159条1項)及び同行使罪(161条)の成否を検討する。

⑴まず、本件売買契約書は、本件土地の売買に関する文書であり、「義務若しくは事実証明に関する文書」にあたる。

⑵次に、甲は、権限がないにもかかわらず、売買契約の成立たる「行使の目的で」、Aたる「他人・・・の署名」をなしており、「偽造」にあたる。

⑶以上より、私文書偽造罪が成立し、また、本件売買契約書をAに交付して「行使」しているため、同行使罪が成立する。

3 甲がⅤを殺した行為について、強盗殺人罪(240条)の成否を検討する。

⑴まず、甲が「強盗」(236条2項)といえるか検討する。

ア 甲は、Vの首を絞めた上で海に落としており、Ⅴの反抗を抑圧するに足りる程度の「暴行」を加えている。

イ 次に、強盗利得罪の「暴行」は、財産上不法の利益を得るための手段としてなすことをその特質としているため、かかる「暴行」によって、「財産上不法の利益」を一時的でなく確定的に得ることができることが必要である。

本件では、甲が本件土地の登記済証や白紙委任状を所持していることを踏まえると、Aが死亡することにより、代理人として振る舞うことができる結果、売却代金2000万円を確定的に得ることができる。よって、「財産上不法の利益」を得る手段として行ったといえる。

ウ したがって、甲は「強盗」にあたる。

⑵甲は殺意をもってVを殺害しているところ、かかる場合も「死亡させた」(240条)といえるか。

ア 同法の趣旨は、強盗がなされた場合に人が死傷する結果が生じる危険が特に高いためこれを防ぐ点にある。そうだとすれば、殺意をもって殺害するという刑事学上顕著な類型を除くことは同法の趣旨に反するといえる。

イ よって、この場合も「死亡させた」といえる。

⑶もっとも、甲はVの首を絞めて(以下「第1行為」という。)殺害し、その死体を海に落とす(以下「第2行為」という。)ことを計画し、その計画通りの認識を有しているところ、現実には、第1行為の時点ではVは死亡しておらず、第2行為によりVの死亡という結果が発生している。そこで、このような場合にも、甲に故意(38条2項)が認めることができるのか問題となる。

ア 実行行為とは構成要件的結果発生を有する現実的危険性を有する行為をいう。そこで、第1行為と第2行為が同一の法益侵害に向けられており、時間的場所的に接着している場合には、1つの実行行為にあたると解し、行為者の認識した因果経過と現実の因果経過の不一致は、因果関係の錯誤として処理すべきである。

イ 本件において、第1行為及び第2行為は、いずれもVの生命という同一法益の侵害に向けられているものである。また、第1行為後に第2行為を行う上で障害となるような事情は存在しておらず、時間的場所的接着性も認められる。

 よって、1つの実行行為といえる。

ウ そして、故意責任の本質は、規範を認識しているにもかかわらず、それに従わない反規範的人格態度に対する道義的責任である。そして、規範は構成要件として与えられており、因果関係も構成要件要素である。そのため、認識した因果経過と現実の因果経過が構成要件において符合すれば、故意を認めることができる。

 本件では、甲の認識した因果経過と現実の因果経過は構成要件において符合しているため、故意を認めることができる。

⑷ 以上より、強盗殺人罪が成立する。

4 なお、甲はⅤの首を絞めて失神させるという実行行為を行っており、Vを「保護する責任のある者」(218条)にあたり、Vを海中に捨てた行為について「遺棄」したとして保護責任者遺棄罪が成立するようにも思える。もっとも、甲はVが死亡しているものと認識しており、主観的には死体遺棄罪(190条)の構成要件に該当する。そして、前者は個人に対する罪、後者は社会に対する罪として、その保護法益は異なるものといえ、構成要件が重なり合うものとはいえないため、両罪はいずれも成立しない。

5 以上より、甲には背任未遂罪、私文書偽造罪及び同行使罪が成立して牽連犯(54条後段)となり、強盗殺人罪併合罪(45条)となる。

 

 

 

自己評価(去年A)

B+~A

概ね論点は書けたと思う。

後で確認したら、本件では「法律上の占有」が認められ、横領罪を検討すべきであった。本番では、昨年横領罪出たし、抵当権だし、表見代理が不成立というところが「財産上の損害」とリンクすると思い、背任罪で検討した。ただ、ここが背任罪で処理しても致命的にはならないと思われる。むしろ、最後の最後に保護責任者遺棄罪を出したが、1つの行為とした先の記載とズレているように感じ、記載すべきでなかった。また、「財産上不法の利益」にあたるかについて、Aは海外に住んでいたことも指摘できたら良かった。

4ページの最後の行まで書き切ったパワーを評価してもらい、Aであることを望む。

 

感想

刑法はヤマ当てというより基本学力が問われている。

ただ、背任罪や文書偽造罪あたりの出題については、各予備校は予想しており、やはり予備校の直前答練や模試の力は偉大であると感じた。

来年は詐欺罪、共謀共同正犯が熱い。