令和元年予備試験論文問題再現答案ー民法ー
第1 設問1について
1 DのCに対する請求が認められるためには、①Dが本件土地の所有権を有し、②Cに占有権限が認められないことが必要である。以下、検討する。
⑴ Cは平成20年4月1日、Aから本件土地を贈与されているところ、Aの相続人たるBは本件土地上にCが居住するC名義の本件建物があることを知ってた上で、本件土地の所有権移転登記を有している。そこで、両者は民法177条により対抗関係に立つのか問題となる。
ア 「第三者」(同法)とは、当事者及びその包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。
イ BはAの死亡により、その地位を相続(882条、887条)しているため、Cとの関係では「第三者」にあたらない。
⑵ もっとも、Bは本件土地の所有権移転登記を前提として、Dのために抵当権を設定している。そして、抵当権実行により、Dは本件土地を買受けており、C及びDのいずれが優先されるのか問題となる。
ア この点について、A(B)を起点として二重譲渡類似の関係が認められるといえる。そこで両者は、177条の対抗関係に立ち、本件土地の登記を先に有した者が優先されると解する。
そして、Dは、本件土地の所有権移転登記を平成29年12月1日に具備しているため、その所有権を得たといえる。
⑶ 以上より、Dに本件土地の所有権が認められる。
2 そうすると、Cは本件土地の上に存在する本件建物の所有権を有しているものの、借地権(借地借家法10条)たる占有権限を有していないため、本件土地上に存在する本件建物を撤去して、本件土地を明け渡さなければならないのが原則である。
もっとも、これはCにとって著しく酷であり、本件建物を撤去されなければならないとすると社会経済上有益であるとはいえないため、Cを保護する法律構成を検討する。
⑴ この点について、抵当権の担保的機能の重要性及び何ら負担ない土地の所有権を得ることを期待する抵当目的物の買受人の犠牲の下、自ら所有権移転登記手続きを怠った者を保護するのは相当ではない。
そこで、抵当権者が抵当権設定当時に抵当目的物たる土地上に建物が存在していることを認識しており、その存在を前提として抵当目的物の担保的価値を評価している場合に、抵当権者とその買受人が同一であれば、信義則上(1条2項)、借地権を認めることができる。
⑵ 本件では、Dは抵当権設定当時、本件土地上に本件建物が存在することを認識しており、その存在を前提として担保価値を評価している。そして、本件土地の買受人はDであり抵当権者と同一であるため、借地権を認めてもDに酷であるとはいえない。
⑶ したがって、本件土地についてCに占有権限が認められる。
3 以上より、Dは本件土地の所有権を有してはいるものの、Cにその占有権限が認められるため、かかる請求は認められない。
第2 設問2について
1 CとDは、177条の対抗関係に立つため、CのDに対する請求は認められないように思える。
2 しかし、Cは本件土地を平成20年4月1日から占有しているため、所有権の取得時効(162条2項)が認められる結果、Cのかかる請求が認められるのではないか問題となる。
⑴ 取得時効の趣旨は、永続した事実状態の尊重にあるところ、これは自己の所有物であっても異ならないことから、自己物についても取得時効は認められる。
⑵ そして、Cは本件土地をAから贈与による引き渡しを受け、かかる時点でその占有権限の取得につき、「無過失」である。
⑶ また、Cは平成20年4月1日から同30年11月1日に至るまで「10年間」「占有」しており、かかる期間継続して占有していたと推定される(186条2項)。
⑷ さらに、「所有の意思」、「平穏かつ公然」の推定(同条1項)を覆す事情も存在しない。
⑸ 以上により、Cは本件土地の所有権につき抵当権の負担のない所有権を取得時効により得ることができるように思える。
3 もっとも、抵当権は登記により公示されており、抵当権者の抵当目的物への優先弁済請求権行使への期待は保護に値する。そこで、取得時効により抵当権の負担のない所有権を得ることが相当といえるか問題となる。
⑴ この点について、抵当権が設定された後に抵当目的物の占有を始めた者については、抵当権者の抵当目的物への優先弁済請求権を保護する必要があることから、抵当権は消滅しないと考えられる。
⑵ 本件では、Cは本件土地に抵当権が設定される前から占有しており、抵当権者の期待を保護する必要は認められない。
4 以上より、Cは本件土地について、抵当権の負担のない所有権を得ることができ、Cのかかる請求は認められる。
自己採点(昨年F)
D
設問1で法廷地上権は思い浮かばなかった。というよりもよくわからないまま177条の第三者の定義を書いた時点で、Bが包括承継人であることに気付くレベルであった。
ただ、概ねそれなりの理論構成で妥当な結論に至っているような気がするし、法廷地上権の設定に気付けた受験生がそれほど多いとも思えない。
また、設問2は時効以外思いつかなかったから、よくわからないことを書いてしなったことが致命傷になっていないことを願う。
Fじゃなければいい。
感想
昨年Fで鬼門であった民法が引き続きハデにやらかしてくれた。
民法は最悪わからなかったら、原則論から問題文の事情を書きまくって妥当な結論に導くという最終奥義を使ったことがプラスになっているとうれしい。